白内障手術の眼内レンズの特徴について



白内障手術では、白くにごってしまった水晶体をとりのぞき、眼内レンズに交換する手術を行います。眼内レンズは人工の水晶体です。レンズは身体になじみやすいアクリル樹脂でできています。合併症や不具合が起きないかぎり、眼内レンズを入れたあとは一生、取り換える必要はありません。コンタクトレンズのようなお手入れも不要です。



■眼内レンズの種類

当院では、白内障手術を行う前に患者様のご要望やライフスタイルをおうかがいし、それぞれの患者様に適した眼内レンズをおすすめしています。

白内障手術で使用する眼内レンズは主に3種類あります。

[焦点までの距離]

・近距離(手元=眼から35~40cm程度の距離)
・中距離(パソコン画面=眼から60cm程度の距離)
・遠距離(眼から5m以上の距離、壁時計や外の景色など)



・単焦点(たんしょうてん)眼内レンズ

近距離・遠距離、どちらか1つの焦点(ピント)が合うレンズです。どちらにピントを合わせるかはご自由にお選びいただけます。お選びいただいたレンズの種類により、メガネが必要になることがあります。たとえば、近距離の眼内レンズをお選びいただいた場合は遠くの物を見るためのメガネ、遠距離の眼内レンズの場合は近くの物を見るためのメガネが必要です。

・2焦点眼内レンズ(多焦点眼内レンズ)

近距離と遠距離、両方に焦点が合うレンズです。近・遠どちらにも焦点が合うため、メガネに頼る頻度を減らせます。ただし、メガネが不要になる訳ではありません。対象物までの距離によってはメガネが必要になります。

・3焦点眼内レンズ(トリフォーカル眼内レンズ)(多焦点眼内レンズ)

近・中・遠、どの距離にも焦点が合うレンズです。

当院では従来の単焦点・2焦点(多焦点)眼内レンズに加え、日本国内で2019年秋に初承認された3焦点眼内レンズ(トリフォーカル眼内レンズ)を取り扱っています。

近年はインターネットの発達により、パソコンが生活に深く関わっています。ネットをする高齢者の方もめずらしくありません。3焦点眼内レンズは日常生活でパソコンやネットを使う方のニーズに応えるために開発されました。

従来の多焦点眼内レンズ(2焦点=近・遠に焦点が合うレンズ)は、中距離(眼から60cm程度=パソコン画面までの距離)に焦点が合わないのが欠点でした。近遠どちらか1つしか焦点が合わない単焦点眼内レンズよりは見えるものの、中距離の物ははっきりとは見えず、パソコン画面を見るときにはメガネが必要になるケースがほとんどでした。

この「中距離(パソコン画面までの距離)」にも焦点が合わせられるのが、3焦点眼内レンズです・3焦点眼内レンズは「近・中・遠」すべての距離に焦点を合わせられます。

3焦点眼内レンズは近・中・遠、3つの距離に焦点が合うため、物を見るときにメガネを使う頻度を減らせます。ただし、3焦点眼内レンズでもメガネが不要になる訳ではありません。術後の見え方によってはメガネが必要になる場合もあります。

・乱視用眼内レンズ(トーリック眼内レンズ)

乱視がある方向けの乱視用眼内レンズもあります。単焦点・2焦点・3焦点、それぞれの焦点に対応した乱視用の眼内レンズをご用意しています。

乱視用眼内レンズは術後の乱視の見え方を軽減し、乱視を矯正する効果を期待できます。ただし、完全に乱視をとることができないケースもあります。



■どの眼内レンズを選ぶのが良い?

◎多焦点(2焦点・3焦点)眼内レンズのメリットとデメリット

2焦点や3焦点の多焦点眼内レンズは複数の距離に焦点を合わせられます。では、多焦点眼内レンズがすべての患者様にとっておすすめできるかと言うと、そうではありません。多焦点眼内レンズには、複数の距離に焦点を合わせられるがゆえのデメリットもあります。

多焦点(2焦点・3焦点)眼内レンズは複数の距離に焦点を合わせられるのがメリットです。特に3焦点眼内レンズは中距離にも焦点を合わせることができ、術後、メガネが必要になる場面を減らせます(※)。ただし、物の見え方は、多焦点眼内レンズは単焦点眼内レンズよりも劣ります。多焦点眼内レンズは単焦点眼内レンズと比べてコントラスト感度が低下するため、クリアさの面で劣り、色合いの区別(濃淡の区別)も下がります。多焦点眼内レンズは色の区別はできるものの、単焦点眼内レンズと比べると、はっきりとした濃淡の区別が多少つきにくくなります。

多焦点眼内レンズは複数の距離に焦点を合わせるため、患者様によっては術後に物がかすんで見えたりもやがかかったように見えることがあります。これを「Waxy Vision(ワクシービジョン)」と呼びます。Waxy Visionが発生する原因は、複数の距離に焦点が合う眼内レンズを入れたことで脳が混乱してしまうため、と言われています。


(※)術後の見え方によってはメガネが必要になることがあります。



◎単焦点眼内レンズのメリットとデメリット

単焦点眼内レンズのいちばんのメリットは、「選択した焦点の対象物をはっきりと見られる」という点です。多焦点眼内レンズと比べ、術後の視界がクリアで色合いもはっきりと見えやすいのが単焦点眼内レンズの特徴です。単焦点眼内レンズは術後のハロー(光に輪がかかったように見える現象)やグレア(光がぎらついたり、まぶしく見える現象)も比較的起きにくいです(※)。

単焦点眼内レンズは選択した1つの距離にしか焦点を合わせられないため、多焦点眼内レンズと比べると劣っていると勘違いされやすいのですが、けっしてそうではありません。たしかに、選択していない距離に焦点を合わせる場合ではメガネが必要になるなどの不便はありますが、選択した距離の視界をクリアにしたい方やハローやグレアが心配な方(※)は単焦点眼内レンズを選択した方が良いケースもあります。


(※)単焦点眼内レンズでも術後にハローやグレアが起きることがあります。



◎それぞれの眼内レンズのメリットとデメリット


・単焦点眼内レンズ

[メリット]

・1つの距離にのみ焦点を合わせるため、選択した焦点のクリアな視界が得られる
・近・遠どちらかに焦点を合わせるため、度数のズレ幅の許容範囲が大きく、術後に生活に支障をきたすほどの違和感を感じにくい
・ハローやグレアが多焦点眼内レンズと比べて起きにくい(※)


(※)単焦点眼内レンズでも術後にハローやグレアが起きることがあります。


[デメリット]

・1つの距離にのみ焦点を合わせるため、選択した焦点以外の物をはっきり見たいときにはメガネが必要になる

・多焦点(2焦点・3焦点)眼内レンズ

[メリット]

・(2焦点眼内レンズ)近・遠、2つの距離に焦点を合わせることができ、メガネを使う頻度を減らせる(※)
・(3焦点眼内レンズ)近・中・遠、3つの距離に焦点を合わせることができ、メガネを使う頻度を減らせる(※)
・(3焦点眼内レンズ)中距離にも焦点を合わせることができ、パソコン画面が見やすくなる効果を期待できる


(※)術後の見え方によってはメガネが必要になることがあります。


[デメリット]

・単焦点眼内レンズと比べると、焦点を合わせた距離の物の見え方がクリアさや色合いの面でやや劣る(コントラスト感度が単焦点眼内レンズよりも低くなるため)
・近・遠(2焦点)、または、近・中・遠(3焦点)の複数の距離に焦点を合わせるため、患者様によっては脳内で混乱が起こり、術後に物がかすんだりもやっと見えるようになることがある(Waxy Vision)
・術後にWaxy Visionなどの見え方の不具合が起きた場合は再手術を行う必要がある
・単焦点眼内レンズと比べて度数の許容範囲が少なく、度数がズレてしまった場合は術後、物が見えにくくなることがある(違和感が大きい場合は微調整のための再手術を行う必要があります)
・単焦点眼内レンズと比べ、ハローやグレアが起きやすい



■眼内レンズの選び方 セルフチェックリスト

◎ご自身に合った眼内レンズをセルフチェックで確認してみましょう


以下はそれぞれの眼内レンズの特徴と適性を記したチェックリストです。どの眼内レンズがご自身に適しているのか、セルフチェックで確認してみましょう。


【患者様のライフスタイルに合わせた眼内レンズをおすすめしています】

眼内レンズは焦点の種類によって術後の見え方が異なります。それぞれのレンズごとにメリット・デメリットも存在します。ご納得して白内障手術をお受けいただくためには、メリットだけではなく、デメリットも事前にしっかりとご理解いただくことが重要です。

白内障手術をお受けいただく際には、患者様のご要望(術後の見え方など)やライフスタイルに合わせた眼内レンズを選ぶことで、術後の生活の質が向上する効果を期待できます。

「どのレンズを選べば良いかわからない」「白内障手術に不安を感じる」など、お悩みやご質問がある方は、当院までお気軽にご相談ください。


宮田眼科
院長
宮田 健太郎
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